エージェントが取り込んだ外部コンテンツに埋め込まれた指示を、利用者からの命令と区別せずに実行してしまう。メール、文書、画像、音声、表計算のセル、ソースコードのコメント、ロボットのカメラ映像など、指示を運ぶ媒体は問わない。同一の構造があらゆる入力経路で再現することが、この型のもっとも重要な性質である。
主要な失敗モード
間接プロンプトインジェクション
欠けていた制御
信頼できないコンテンツの未隔離
対処すべき層
運用の変更
なぜ制御が無かったか
設計上の限界
パターン詳細
エージェントが取り込んだ外部コンテンツに埋め込まれた指示を、利用者からの命令と区別せずに実行してしまう。メール、文書、画像、音声、表計算のセル、ソースコードのコメント、ロボットのカメラ映像など、指示を運ぶ媒体は問わない。同一の構造があらゆる入力経路で再現することが、この型のもっとも重要な性質である。
主要な失敗モード
間接プロンプトインジェクション
欠けていた制御
信頼できないコンテンツの未隔離
対処すべき層
運用の変更
なぜ制御が無かったか
設計上の限界
最終更新: 2026/09/25
AIエージェントを業務ツールに接続すると、エージェントは「ユーザーが入力した文章」以外のものを大量に読むようになります。受信トレイのメール本文、共有ドキュメント、検索で取得したWebページ、リポジトリの画像ファイル。これらはユーザーが書いたものではなく、第三者が中身を自由に決められるデータです。
そこに命令文が書かれていたとき、モデルには「処理すべきデータ」と「従うべき指示」を確実に区別する仕組みがありません。攻撃者はこの性質を利用して、ユーザーの意図とは無関係な操作をエージェントに実行させます。
危険なのは注入そのものではなく、注入されるエージェントが「接続されている」ことです。メールを送れる、ファイルを読める、外部APIを呼べる、脚を動かせる。命令を受け取る経路と、行動する権限が同じ場所にあることが、この失敗を成立させています。
このパターンがいちばん重要な理由は、件数の多さではなく再現のしかたにあります。エージェントが新しい種類の入力を読めるようになるたび、同じ失敗がその入力経路で作り直されています。
| 指示を隠した場所 | 事例 | 到達した先 |
|---|---|---|
| カレンダー招待・共有コンテンツ | Gemini 接続ツールへの cross-tool injection | 接続されたツールの操作 |
| メール本文 | M365 Copilot のゼロクリック流出経路 | 信頼境界を越えたデータ流出 |
| URLパラメータと連携アカウント | Copilot Personal のコマンドインジェクション(CVE-2026-24301) | Gmail・Google Drive からの機密データ流出 |
| 画像のメタデータ | Opus 5 / Claude Code へのステガノグラフィ注入 | リモートコード実行(12回中10回成功) |
| PNG画像 | Ghostcommit 攻撃 | .env の秘密情報をソースコードへ書き出し |
| 表計算のセル(白文字) | 偽の為替レートによる誤判断 | 割高な見積を「最良」と誤判定 |
| 表計算のセル(青地青文字) | CellShock | IMAGE 数式経由で財務データを外部送信 |
| 環境音 | 音声チャネルへの同時注入 | マルチモーダルエージェントの操作(成功率69.1%) |
| 法的文書の白色3ptフォント | コネチカット州裁判所への申立書 | AI支援による判決の操作(未遂・制裁) |
| ソースコードのコメント | VirusTotal Code Insights API | セキュリティ分析結果の偽装・無効化 |
| ロボットのカメラ映像 | Gemini Robotics VLA モデル | 特定の物体を検知したら有害動作(スリーパー) |
上から下へ、1年あまりで「メールを読むアシスタント」から「パイナップルを見つけたら動くロボット犬」まで到達しています。媒体は毎回違いますが、構造はどれも同じです。データとして渡したはずのものが、指示として読まれている。
だからこのサイトでは、媒体でパターンを分けていません。分けてしまうと、新しい入力形式が出るたびに「新しい失敗」が生まれたように見えてしまい、同じ設計上の欠陥がずっと放置されているという事実が見えなくなるからです。
この一覧の多くは研究者による実証報告です。ただし、実際に使われた形跡のあるものも含まれています。
コネチカット州の事例は、裁判所に提出された本物の申立書に隠し指示が埋め込まれていたもので、裁判官は当該当事者に電子申立の禁止という制裁を科しました。Copilot Personal の事例には CVE 番号が割り当てられ、Microsoft がパッチを公開しています。VirusTotal の事例は Google の AI VRP で受理されました。
重大度はS1(ヒヤリハット)からS3(重大な影響)まで、情報確度はC2からC5まで幅があります。「実証されただけ」の段階のものと、実害や公式対応まで至ったものが同居しているのが、このパターンの現在地です。
利用者が不審なリンクを踏む必要はありません。メールを受け取るだけ、画像をリポジトリに置かれるだけで条件が揃います。攻撃コンテンツを読ませる操作が、「受信トレイを要約して」「このコードをレビューして」といった正常な利用そのものだからです。
Ghostcommit の事例が分かりやすい例です。PNG画像に隠された指示は人間のコードレビューでは見えません。レビューを通過して取り込まれ、後日その画像をエージェントが処理したときに初めて発動します。攻撃の実行と、攻撃コンテンツの混入が、時間的に切り離されています。
これは修正パッチで塞げる種類のバグではありません。「外部のコンテンツを読んで、内容に応じて気を利かせる」ことは、エージェントの仕様どおりの動作だからです。バグではなく設計の性質に起因しているため、個別の入口を塞いでも別の入口が残ります。当サイトがこの型の原因種別を「設計上の限界」、残存リスクを「高」としているのはそのためです。
入力のフィルタリングやプロンプトによる防御も、攻撃者が言い回しを無限に変えられる以上、確率を下げることはできても保証にはなりません。表計算の事例が示すとおり、単純な埋め込みは検出できても、書式を周囲に合わせて既定の行高では見えない位置に置くだけで回避されています。Ghostcommit では一部のツールが防御に成功していますが、同じ攻撃が他のツールでは通っています。
対策の骨格は共通ですが、入口ごとに前処理が1つ増えます。
効果の大きい順に挙げます。上ほど設計に踏み込みますが、その分確実です。
当サイトではこの型の「対処すべき層」を運用の変更としています。ベンダーの修正を待つ話ではなく、権限設計と承認フローの側で抑えるしかない、という判断です。
CellShock: 表計算に隠した指示が Claude for Excel に IMAGE 数式を生成させ、財務データが外部送信された実証
Gemini Robotics VLMへのプロンプトインジェクションで、ロボット犬にトリガー式の隠れた有害動作を埋め込む実証
表計算セルに隠した偽の為替レートで、ClaudeのOfficeエージェントが割高な選択肢を「最良」と誤判断した実証
Microsoft Copilot Personalの特殊URLパラメータとprompt injectionを組み合わせたコマンドインジェクション(CVE-2026-24301)が連携アカウントからのデータ流出を可能にする
VirusTotal Code Insights APIへのprompt injectionが悪意あるコードコメントを通じてAI分析結果を偽装
コネチカット州裁判所の法的文書に白色3ポイントフォントで隠されたprompt injectionがAI支援判決の操作を試みる
Ghostcommit攻撃、PNG画像にプロンプトインジェクションを隠しAIコーディングエージェントから秘密情報を窃取
画像メタデータへのステガノグラフィック埋め込みと多層エンコードによる間接プロンプトインジェクションでClaude Code(Opus 5)がリモートコード実行に至る
環境音を用いたプロンプトインジェクションがマルチモーダルエージェントに対し平均69.1%の成功率、Gemini 3 ProやGPT-4o-audioも対象
Microsoft 365 Copilot に対するゼロクリック型 prompt injection 経由の情報流出経路
招待情報や関連コンテンツを経由した Gemini 接続ツールへの間接プロンプトインジェクション